ニュースレターを発行
2011年9月
ジェフリーAバッジャー博士
Grinding Docコンサルティング
アメリカ、テキサス州オースティン
www.TheGrindingDoc.com
JB@TheGrindingDoc.com
砥石の「スイートスポット」を見つける
全ての研削加工には「スイートスポット」があります。「スイートスポット」とは、速度、送りの設定が適切で、砥石がうまく機能し、表面仕上げが良好で、磨耗の進行も遅く、全体的な研削の質が良い状態を指します。
スイートスポットに入っていない場合、ワークピースの焼け、ビビリ、または砥石が早く磨耗してしまう等、あらゆる問題が生じる可能性があります。効率的で低温研削を実現するためにはこの「スイートスポット」を見つけることがとても重要です。
大量生産の際、一般にこの「スイートスポット」を見つけるのはマシンのオペレーターが得意です。砥石、ワークピース、クーラントと研削盤の組み合わせに最も合ったパラメータを探すために、時間をかけて送り速度と砥石速度を微調整します。
しかし、オペレーターが新しい仕事を依頼された場合はどうでしょう? 例えば、オペレーターが超硬エンドミルを研削している場合、いつも加工している直径6ミリのエンドミルではなく、切削深さの深い直径25ミリのエンドミルを研削することになったら、そのオペレーターはどう対処すればいいのでしょう? このような場合は、微調整を繰り返し行い、スイートスポットを探すことになります。
では、試行錯誤を繰り返すより良い方法はないのでしょうか? その答えは、当然あります! 速度や送りなどにこだわるよりも、アグレッシヴネスの観点で考えてみましょう。直径6ミリの加工については、オペレーターはすでにその砥石、ワークピース、クーラントと研削盤の組み合わせに適したアグレッシヴネスを見つけています。新しい仕事の際も、そのアグレッシヴネスを適用すれば良いのです。
アグレッシヴネスとは?
アグレッシヴネスとは、単純に砥石の砥粒をどれだけ押しつけてているかを指します。下図に表示されている切込み深さ、または切り粉厚に似ています。アグレッシヴネスが強すぎると砥粒が材料に深く突き刺さり、砥粒に対する力が強すぎて砥粒が早めにボンドから引き抜かれてしまいます。アグレッシヴネスが十分でないと、グリットは表面をくすぐるだけで、摩擦と発熱が多く砥粒が自生できるほどの強さでないため、砥粒は丸まってしまいます。この両極端の間に最適なアグレッシヴネスがあり、それを「スイートスポット」と言います。

アグレッシヴネス値は、ワークピースに砥粒がどの程度の深さ刺さっているかに関連します。
アグレッシヴネスの計算方法
アグレッシヴネス値は下記の式を用いて計算します。

これを見ると、高いワークピース速度、または送り速度ほどアグレッシヴネスが高まることがわかり、、さらに切り込み量が大きくても同様です。高速の砥石速度では、グリットは深く刺さらないためアグレッシヴネスは減少し、同一回転数では、大径砥石の使用もアグレッシヴネスを弱めることになります。
適正値
適正なアグレッシヴネス値とは何でしょう?それは、砥石と非削材それぞ���の材料により左右されます。それぞれの砥石とワークピースの組み合わせは、スイートスポットに入る独自な狭い範囲のアグレッシヴネス値を有します。もしオペレーターが時間をかけてその仕事の微調整を行った場合、その加工に対する良いアグレッシヴネス値を見出した可能性が高いといえます。いったん理想のアグレッシヴネス値を見つけたら、そこから離れないことを推奨します。
群盲と象
最近私はあるレジンボンドダイアモンド砥石を使用して超硬エンドミルを研削していた会社を訪問しました。同じマシーン、同じ砥石の仕様を使用いた二人のオペレーター、ジョーとハンクは、同じような業加工を行っていました。ジョーは、その仕事には自分のパラメータがベストだと主張しました。逆に、ハンクは自分が使っているパラメータがベストだと主張したのです。
その後、ネットを調べたらその研削砥石製造会社のパンフレットを見つけ、そこにケーススタディに使用したパラメータが記載されていました。その会社のパラメータ、さらにジョーとハンクのパラメータを以下の表に示します。
|
切り込み量(mm)
|
送り速度
(分速mm)
|
砥石速度
(m/s)
|
砥石直径
(mm)
|
材料除去速度
(mm3/mm/s)
|
アグレッシヴネス値 |
ジョーの小直径超硬エンドミル用のパラメータ
|
2.5 |
150 |
18.5 |
150 |
6.3 |
17.4 |
ハンクの中直径超硬エンドミル用のパラメータ
|
2.9 |
115 |
16.5 |
120 |
5.6 |
18.1 |
砥石製造会社の砥石に関するパンフレットの中直径超硬カエンドミルを研削する場合のケーススタディ
|
2 |
300 |
33 |
150 |
10.0 |
17.5 |
ダイアモンド砥石を使用した、超硬粗研削のパラメータ
パラメータを見ると、ジョーは18.5 m/sで研削、ハンクは16.5 m/sで研削していたことがわかります。ハンクのパラメータの意見をジョーに尋ねると、ジョーはこう答えました。「無理だよ。ハンクは何をやってるのか自分でわかっていない。俺が16.5 m/sで研削したら砥石が磨耗して出口付近点でチッピングが生じるよ。」
次にハンクの意見を訊くと「ジョーはいかれている。18.5 m/sで研削したら砥石が焼けてワークにひびが入るさ。」
次に砥石製造会社のケーススタディパラメータの意見を二人から求めました。二人は「うそだろ!」と驚いたのです。「33 m/sは絶対無理だ。」と、二人はこのパラメータに関しては合意した様子でした。
アグレッシヴネス値を見てみましょう。17.4, 18.1 と17.5の数値がここに表示されています。砥石速度が大幅に異なるにもかかわらず、これらの数値は非常に近似的です。なぜでしょう? この砥石仕様の場合、17.5 ~18.0が適度なアグレッシヴネス値です。これはさまざまな方法から得る実ことができ、また確認されていますいます。砥石製造メーカーのオペレーターを含め、それぞれのオペレーターがそれぞれに微調整を行い、ほぼ同様のアグレッシヴネス値に到達しています。
アグレッシヴネス値を有利に使用
今後、作業を行う際にはアグレッシヴネス値を計算してください。時間と共に特定の工程に適したアグレッシヴネス値のデータベースを作成します。砥石のスイートスポットを獲得できるアグレッシヴネス値に到達した時点で記録しましょう。例えば、通常よりも小さなワークサイズを使用して切り込み量を減少させる必要があるとしましょう。これは特に問題はありません。同じアグレッシヴネス値を実現する送り速度、砥石速度を選ぶだけのことです。これで、その砥石のスイートスポットを得ることができます。
アグレッシヴネスという概念を私が初めて発案したのが2001年でした。そして2007年にアグレッシヴネス値を集中研削コースで教え始めました。過去のコース参加者と話すと、多くの人が同じ事を言います。「アグレッシヴネスは、コースで身に付けて以来いつも使用しています。問題が生じると、必ずアグレッシヴネス値をチェックして通常使用しているものが反映されているかを確認します。問題が生じる場合は、必ずと言っていいほどアグレッシヴネス値が高すぎたり、低すぎたりします。今は常にアグレッシヴネス値をモニタリングしているので作業が安定しています。」
ということで、さまざまな速度、送りなどにこだわらず、これからはアグレッシヴネス値を意識しましょう。

著者について
ジェフリー・バッジャー博士は研削の専門家であり、インディペンデント・コンサルタントでもあります。Diamond Innovations(ダイアモンド・イノベーションズ)主催の10月19日〜21日の3日間の集中研削コースを、アメリカのオハイオ州コロンバスで行い、EMOにも出席して会場を回ります。コースの詳細、またはEMOのスケジュールについては www.TheGrindingDoc.com をご覧ください。
12 9月 2011