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2024年10月
ANCAが工具製造技術の進歩を祝う50周年を迎えるにあたり、ANCA CNC Machines(オーストラリア、ベイズウォーターノース)のゼネラルマネージャーであるエドモンド・ボーランド氏は、5年から10年後の未来を見据えています。
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人間と犬だけ?
未来の工場には人間が1人と犬が1匹いるという昔話は、工具研削加工においては現実のものとなりそうです。
ボーランド氏によると、少なくとも、生産工程全体がデジタルでリンクされることになるとのことです。「原材料の受け入れから、パレット化、レーザーエッチング、ブランクの準備、工具およびカッターの研削、刃先処理、コーティング、そして完成品の出荷まで多岐に及びます。例えば、特定の作業が外径の準備から5軸研削盤に移行すると、機械が自動的に正しいプログラムを呼び出し、工具の仕上げ研削を行います。また、すべてが企業のERPおよびMESシステムにリンクされ、非常に優れたデータ分析により、正しい判断を下し、プロセスを改善することを可能にします。」
外径研削やストリーム仕上げなどの個々の工程は、いったん設定されてしまえば、高度に自動化されることがよくあります。 それでは、成功している企業とそうでない企業との違いはどこにあるのでしょうか。ボーランド氏の見解によると、それはそれらの工程がどの程度自動化されているか、また、ステーション間の材料の移動がどの程度自動化されているか、という点です。
「中小規模の工場では、おそらくパレットをODマシンから5軸マシンまで実際に移動させてスキャンする担当者がいるでしょう。しかしデジタル上では、5軸マシンはERPシステムと連携し、これらのブランク材を受け取っているというファイルを受け取ります。コーティングを外注している場合でも、同じことが起こります。デジタル上では、その情報はコーティング部門に送られますが、5軸加工機から出荷部門に工具を手動で移動させる作業が発生します。大規模な工場では、ロボット化されたカートが物理的な移動を行います。」これがANCAの統合生産システム(AIMS)のケースです。
セットアップと品質の向上
工場での自動化が進めば進むほど、生産品質はより安定し、作業者はAIの支援を受けながら、個別の問題の解決や全体のプロセス改善に集中できるようになります。「必ず公差から外れた工具が出てきます。そして誰かが『なぜ?何を調整する必要があるのか?生産工程のどこかに問題があるのか?プログラムが間違っているのか?』と尋ねなければなりません。
したがって、競争力のある企業は、少数の高度なスキルを持つ従業員に頼るのと同時に、ANCAアカデミーで提供される高度なトレーニングに頼ることになります。」
ボーランド氏は続けて、「機械のセットアップにおいても熟練した人材が引き続き重要な役割を果たすことを想定していますが、そこにも変化が訪れるでしょう。例えば、ステディレストのような技術にはセンサーが搭載され、自動調整機能が備わります。
加工中に検出されたエラーを自動補正する機能はすでに現実のものとなっており、この機能はさらに向上していくでしょう」さらにボーランド氏は付け加え、「例えば、現在の技術では、機械がブランクを斜めにセットした場合、プローブがエラーを検知し、研削の問題を自動調整して満足のいく工具を製造します。しかし、新しいタイプの工具の場合は、最初の1個は手動でチェックする必要があり、その後はシステムが引き継ぐかたちとなります。「First tool right(最初の工具の精度)」は、すでに当社の大きなモットーとなっており、最初の工具から測定・補正を実現しています。」
その要因の一つとして、内部測定装置の性能が向上し続けていることが挙げられます。ボーランド氏は、同社の新世代レーザーは、クーラントミストが存在する環境でも、工具自体に多少の残留油分がある場合でも測定できると指摘しています。「ビジョンシステムは、使用後に手動で配置や取り外しを行う必要がありますが、そのうち変わるでしょう。カメラシステムにはレーザーよりも優れた換気が必要ですが、解決策はあります。ロボットが研削直後に機械内の環境から切り屑を吹き飛ばすことができます。あるいは、ロボットを使用してカメラを外部から機械内に移動させることもできます。
同時に、内部で測定でき、自動的に補正できる機能のリストも増えていくでしょう。現在は外径、工具プロファイル、フルート深さなどで、 近い将来、さらに多くのことが可能になるでしょう。 例えば、スレッドミルやタップ内のねじ山、Kランド、ガッシュなど、システム内で測定できる限り、補正が可能です。」
特に複雑な形状を測定する場合は、ZOLLER Geniusのような独立した測定機の必要性がなくなることはないとボーランド氏は考えています。しかし、同氏はこのようなシステムと工具研削盤の相互作用の改善も予測しています。
同氏は、特定の幾何学的形状の標準化された測定プロトコルの確立が鍵であると説明しています。「このような測定プロトコルが作成されるまでは、工具研削盤で測定された偏差を補正することはできません。現時点では、ANCAはよりシンプルなエンドミルやドリル用の標準的な測定セットを用意しています。しかし、私たちは顧客ベース全体にAIMSを導入しており、補正可能な測定範囲を拡大するために、これらの顧客と協力しています。例えば、かなり複雑なプロファイルツールや複雑なエンドミルに取り組んでいます。
サブミクロン単位の許容誤差
公差が厳しくなっていることは周知の事実です。 ボーランド氏は、ミクロン、さらにはサブミクロンレベルの精度を実現することが、今後の多くのアプリケーションを獲得する鍵となると述べています。 このような精度に対する需要は、これらの切削工具の利点により、今後さらに高まると予想されます。 加工される工作物の表面仕上げ、工具寿命、その他の要因など、その理由はさまざまです。 切削工具内の小さな不整合をすべて取り除くことで、その性能は大幅に向上します。
これが、市場がソリッドラウンドツールへと移行しつつある理由でもあります。「ユーザーはソリッドラウンドツールの剛性と、工具を押し進めながら優れた表面仕上げを実現できるという利点を求めています」とボーランド氏は報告しています。
「より高いレベルの精度を維持するには、先ほど取り上げた高機能な自動化、インプロセス測定、クローズドループ補正機能だけでは不十分で、クーラントシステムや購入する砥石の種類など、工具研削盤だけではなく、その周辺システム全体に重点を置く必要が出てきます。エアコンのような単純なものでも高価なものは必要です。」とボーランド氏は説明します。
同様に、「工作機械内の空調装置が非常に重要で、振動により、キャノピーの真下にミスト抽出機を設置することはできなくなるため、振動の排除は絶対に重要になります。したがって、集中クーラントシステムと集中ミスト抽出が必須となります。」と述べます。
同氏は、より高精度な工具に対する需要が高まると予測していますが、低価格の工具に対する需要も引き続きあると考えています。 最も厳しい許容誤差を満たすための固有のコストと難しさが加わるため、これまで説明してきた改善の採用は限定的になるでしょう。
材料の傾向
炭化タングステンは依然として最も一般的な切削工具材料ですが、PCDの使用はより急速に増加しており、10年ほどで市場の30%を占めるようになるかもしれません。 セラミックも関心が高まっていますが、まだごく一部にとどまっています。
同様に、研削以外の材料除去技術のニーズも高まるでしょう。ワイヤー放電加工機と回転放電加工機は現在、PCD加工の主流ですが、レーザーアブレーションにも注目すべきだとボーランド氏は言います。「間違いなくこれは新技術で、初期の機械を導入したゆユーザーは、PCDだけでなく超硬合金の加工にも使用しています。特に、マイクロツールは現在、レーザーアブレーションの潜在的可能性として注目されており、工具メーカーは興味深い結果を得ています。」
「PCDに関しては、レーザーアブレーションは放電加工よりも明らかに優れています。 冷却剤や消耗する銅電極を必要としません。」と同氏は言います。 競合技術と比較して機械は40~50%ほど高価になるかもしれませんが、消耗品コストが低いため、長期的にはコスト削減につながる可能性があります。 レーザーアブレーションは、放電加工では不可能な形状、例えば表面の特徴なども作成することができますが、逆に大径工具のフルート加工には意味がありません。したがって、レーザーアブレーションがニッチなソリューション以上のものになるかどうかについては、ボーランド氏は依然として懐疑的に感じています。
積層造形法も同様に、産業における材料除去の用途をいくつか置き換える以上のものになる可能性は低いと思われます。また、切削工具の製造への適用性も限定的であると思われます。「10年後にも十分に効率的になっているとは思えません。しかし、特殊な工具の製造には可能性があるでしょう。冷却液の内部チャネルなど、それ以外では不可能なものが作れるかもしれません。また、高価な大型切削工具の製造にも役立つかもしれませんし、これが普及したとしても、仕上げ研削の必要性をなくすほど正確になるとは思えません。」とボーランド氏は予想します。
その他の市場の考慮事項
ボーランド氏が想定する生産効率を考慮すると、再研磨は廃れると予想するかもしれません。しかし、再研磨にも先に述べた自動化ソリューションが適用されるだけでなく、同氏は持続可能性への懸念が今後も再研磨を実行可能なビジネスにすると推測しています。
同時に、先進的な工具メーカーが達成した高い効率性により、少量の特殊工具であってもより迅速な納品を求める市場の期待が高まっています。ボーランド氏は次のように述べています。「特定の作業に最適化された特殊工具を簡単に製造できる能力こそが、ユーザーにとって重要となるでしょう。
当然のことながら、電気自動車への移行により、自動車業界における切削工具の需要は最大50%も減少しています。この傾向は世界中で見られますが、米国においては電気自動車の普及は遅れています。しかし、電気自動車の全体的な影響は間違いなく大きいでしょう。
そして、このテクノロジーがどこに落ち着くのかという問題もあります。しかし、それは事実に基づくというよりも、むしろ哲学的な議論です。水素が主流になるのでしょうか? 超クリーン燃料が復活し、内燃機関がもう一度息を吹き返すのでしょうか? これは誰にもわかりません。」
サービスとサポートの変化
ボーランド氏は、「AIが将来の生産性を大幅に向上させるメカニズムとなる」と予測しています。その理由の一つとして、部品の故障を事前に正確に警告するのに役立つことが挙げられます。さらに、交換部品を自動的に発注することも可能です。そのため、予防保守は的を絞った効率的なものとなり、ほぼシームレスな稼働時間を確保できます。
逆に、同氏は、マルチマシンオートメーションはダウンタイムを許容できないものにする、と指摘しています。「お客様は1日や2日、1台のマシンなしでも大丈夫です。しかし、完全自動化されたシステムが数時間以内に稼働しなければ、それは大きな問題です。ですから、迅速かつ24時間体制で対応できることが重要になってくるでしょう。それを可能にするテクノロジーは様々で、これには、リモート診断や予測診断も含まれ、サービス担当者が現場に赴く必要性を減らすことができます。」
将来何が起こるにせよ、興味深いものになるでしょう。そして、もしボーランド氏が何かについて間違っていたとしても、いつでもあなたの犬(マシン)を頼りにすればいいのです。
8 10月 2024